★以前執筆した朝日ビジュアルシリーズ「野菜づくり花づくり」
の連載エッセイ「ソローヒルの庭から」を大幅に加筆改稿して1年間52回
週刊連載します。自然を愛する人々、田舎に住みたい方々に読んでいただければ幸いです。

文・鶴田静 / 写真・エドワード・レビンソン 禁転載


     「ソローヒルの庭 12ヶ月52週」
     第10週  2013/5/6から
翡翠色の若木 母の日

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 雑木林の幼かった苗木はようやく若木となって、翡翠色の影をまっすぐに通している。信州からやってきた木々も、ついに根付いたようだ。これらが大木になるのをいつか見ることが出来るだろうか、とふと思う。そんな私の思いを知らず、若葉風が小さな緑林を吹き抜けていく。 
 庭の樹木の何分の一かは、人様からいただいたものだ。ここの造成中に、知人の庭から抜かれてきた木。造園家によって運ばれた由緒ある植木。里子に出された木、養子にした木。ことあるごとに方々から木が届く。どの木を見ても、贈り主が心に浮かぶ。 
 自分の庭を持つ前から、私は苗木を育てていた。長さ10センチ程度の枝を挿し木して、それぞれ何10本かのレンギョウやムクゲやフヨウに育てた。ドングリを鉢に埋めて芽を出させたら、今では3メートルほどの立派なコナラになった。サザンカやツバキ、ツツジやキョウチクトウの苗木は、園芸店や昔ながらの植木屋さん、農産物直売所で購入した。挿し木から育つのを待っていられなかったのだ。こうしてどうにか、原野を庭と呼べるようになったのだ。 
 連休明けの仕事始めである。私は
6月に出る新刊本『宮沢賢治の菜食思想』(晶文社)の校正の追い込み。夫はといえば、立夏を迎えて日ごとに変わる光景に追われ、連日、写真撮影で忙しい。カメラを何台も肩にかけ、両手で道具を持ち運ぶ。そして手ぬぐいを頭に被り、地下足袋を履き、腰に植木鋏を挟んだ農夫の姿。カメラと植木道具の二刀流で仕事をしているのだ。

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 歳時記では「がま鳴き始め」だが、ここではフクロウが初鳴きをしている。花も喜び、一輪のバラがほほ笑んだ。それを見て「母の日」を思う。庭で摘んだ新鮮な花々を贈りたいのだが、私の義母はアメリカにいるので、例年、インターネットで花束を注文する。それを腕に抱く義母の、花の笑顔が見えるようだ。時にはスカイプで,すぐに義母のその姿が見られるのはうれしい。
 今年の好天に恵まれた母の日。しかし私には特別な贈り物はない。あるのは毎日贈られる夫の優しさと愛犬の愛らしさ。それで大満足。
 でも私自身も犬の母親だから、手元の材料でご馳走らしき一品を作る。間引きや小粒の野菜を蒸し、好みのソースでいただくシンプルな料理。レタスやタマネギ、ニンジン、ラディッシュなどの生まれたての野菜の甘味が濃い。
 散り過ぎる花から咲きすさぶ花へ、命をリレーで引き継いで、自然は折節の庭を創り出してくれる。
                    (来週に続く)


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(写真:エドワード・レビンソン)
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