読書欄「こころの1冊」月1回

004-5年の掲載文を毎月転載します。

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『ヒトは狩人だった』
福島章著 青土社

 昨年をしばし振り返る。自分自身はともかくとして、世の中の出来事を思い起こすと暗澹となる。何とたくさんの命が奪われたのだろう、天災で、人災で、事故で、戦争で。犠牲者の冥福を祈り、彼らとその原因を忘れないことが残された者の義務だと思う。
 中でも、普通に生活をしていた人が、いたいけない幼い子どもが、突然殺されてしまう非条理には怒りを鎮めようとしても鎮まらない。いったいどうしてこんな事が起こるのだろう、起こせるのだろう? 個人にしろ集団にしろ、そんな人間のことが知りたいと思い本書を読み、納得した。
 人間のもつ本性の一つ、〃攻撃性〃は、動物を狩猟してその肉を食べていた狩猟時代に開発され、遺伝子として引き継がれたという。それまでのヒト科の動物は菜食をしていたのだが、他の動物に
食べられる危険を克服し、今度は自分が動物を攻撃してその肉を食べるようになった。それは単に食味を満足させただけでなく、征服欲、支配欲、勝利感をも満足させたのである。
 この〃快感〃を著者は「狩猟時代から現代に至る人類史に連綿と続く、暴力、殺人、戦争、抗争、いじめ等のルーツである」としている。そして「覚醒と興奮」「血の酩酊」 「性犯罪者たちの狩猟行動」「牧畜と支配欲」などの章でさらに詳しく、興味深く分析している。
 著者の説に共鳴するのは、私が長年、平和的な生き方のためには菜食を、と提唱してきた我田引水からである。大地に膝間づいて食物を育てる農耕生活をすることに、個人的な平安と社会的な平和を見出せるということなのだ。私はこれからも自分で野菜を育て、非狩猟的な生き方をしていこうと思う。実際、今は狩猟解禁になり、愉しみのために鳥や兎を撃つハンタ
ーが町からやってくる。こんな野生動物もふくめ、新しい年こそ一つの命として奪われることのないよう、心から祈ろう。

**我が家の周りで、今、ハンターたちが小鳥や野ウサギを鉄砲で撃ち殺している。かくも容易に命を奪う行為が日常生活の中で起きている。
私の小さな声の抗議は彼らには届かないのが悔しい。