雨の日を楽しく
しとしとしと……音を立てて雨が落ちる。張り詰めていた田んぼの水面が揺れて、稲穂がさやさやと鳴る。土手に並んでいる梅の木の青い実が、きらりと光
る。厚い葉陰の下の枇杷の実から水滴がしたたっている。雨や露や水に濡れた植物は美しい。輝いて宝石のようだ。
外にいてひとしきり雨の景色を愉しんだ後、少しからだが冷えたので、お湯を沸かして熱いしょうが湯を飲む。蜂蜜を入れて甘くして。これは冷房で冷えたか
らだにも利くのだ。からだが暖まったら一仕事。雨の降る前に取ってきた青梅を洗い、ボウルの水の中に入れ、一晩置いて灰汁抜きをする。さてこの梅を、梅酒
にするかそれともアルコール抜きの梅シロップにするか、それが思案のしどころだ。水の中で寝ている梅と一緒に、私も一晩寝ながら考えよう。
取ってきた実がもう一種ある。枇杷だ。産地に住んでいるので、古木に取り残された実をたくさん集めることが出来る。そのまま生で食べたいところだが、ど
うも味がいまいち。これは煮るに限ると砂糖を加え、ゆっくりじっくりことことと煮る。雨の日にはもってこいの仕事だ。調理の火で部屋が暖まるから。やがて
甘い香が漂ってきて、〃枇杷のコンポート〃が出来上がる。
梅酒作りにしろコンポート作りにしろ、こんな作業は〃料理〃というには簡単過ぎる。きっと日頃料理に疎い男性にも出来るんじゃないかしら。そこで提案。
父の日には、それが雨の日なら特に、ゴルフや外の付き合いはお預けにして、一日家にいて、こんな簡単な家内生産をするのは楽しいのではないでしょうか。去
年自分で作った梅酒やシロップと、この日のためのデザートで父の日を祝うのだ。「ええっ、これ、お父さんが作ったの!?」妻も子供たちも、どんなに夫や父
を誇りに思うだろう。おとうさんの、仕事のでない別の有能な面を知って。
最近、パン焼きや蕎麦打ち、うどん捏ねを習って家族に振る舞う男性も多くなった。そうだ、バーベキューで肉を焼くコンロの前だけが男性の持ち場ではな
い。もっと〃家内〃に入り、厨房に入り、家族の中に入って暮らしを楽しまなくちゃ。でもそれが父の日だけだったらちょっと寂しい。
晴れの日を正とするなら、雨の日は何となく負の感じがするのはどうしてだろう。濡れて、冷たくて、湿って、歩きにくくて、危険で、外での活動が狭められ
て……といろいろな事情がある。けれども私など、雨が降るとアマガエルのように大口を開けて喜ぶ。というのは、我が家には市の水道が引かれていず、〃命の
水〃は井戸と雨水から得ているからだ。だから雨が降ると、生き延びる、と嬉しいのである。ほら、やっぱりカエルみたいだなあ。
多雨の日本では、木造家屋はじめじめして黴が生える。その不快感を、嫌というほどこれまでの古民家暮らしで味わってきた。でもこの日本の多雨こそが植物
を豊かに育てているのだから、不平ばかり言ってはいられない。けれども洪水や水害には困ったものだ。東京にいた時に床下浸水を、滞在先の福岡市で床上浸水
を体験している私にはその恐ろしさが分かる。どうかそんな事が起こりませんように。
雨の日も快適に過ごしたい、と私は一つの工夫をしている。それは炭の利用である。あの火と燃える炭が、湿気を吸収するとは私が得た新しい知識の一つだ。
吸臭作用もあるから戸棚や押し入れ、引き出し、部屋の隅に、少しの炭を小さくして紙にくるんで置いておく。マイナスイオンも発生して、室内はさわやかに保
たれる。さらに放湿作用もするというから、長雨の時期だけでなく、一年中効果的なのだ。
我が家にとって炭が救世主となっているもう一つの働きは、水の浄化作用である。井戸に入れたり浴槽に入れて、おいしくきれいな水を使っている(自分でも
水を汚さないように気をつけて)。特に水道水の塩素を吸着してくれるというから、田舎暮らしばかりでなく都会生活にこそ、炭が大いに役立つのである。炭を
飲み水のジャーに入れておくといいし、浴槽に入れると肌へのピリピリ感がなくなる。
雨の休日には皆家の中にいて、じっくりと、家族のこと、暮らしのこと、そして命の水のことを思いたい
yuai2004/6
月号
yuai誌は日本で最大の労働組合団体、ゼンセン同盟の機関誌
です